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2006年3月13日 (月)

(に) ニシン HERRING

☆赤いニシンにのまれて?
 『そして誰もいなくなった』というミステリー小説をご存知だろうか?

 世界的に有名なイギリスの女流推理作家、アガサ・クリスティーの作品である。名探偵ポアロやミス・マープルの生みの親である。子供の頃から彼女の作品が好きで、いろいろ読んでいるのだが、この『そして誰もいなくなった』は私のお気に入りの一つである。

そして誰もいなくなった Book そして誰もいなくなった 

著者:アガサ クリスティー
販売元:早川書房

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 無人島に招待された10人の男女が、イギリスの有名な童話、マザーグースの”Ten  little niger boy ~(10人のインディアン)”の唄のとおりに、次々と殺されていくという話である。

 このマザーグースの唄は、
「10人の子供がごはんを食べて、ひとりがのどを詰まらせ、9人になった。
 9人の子供が夜更かしして、ひとりが寝坊して、8人になった。
 8人の子供がデヴォン地方を旅行して、ひとりが残ると言って、7人になった。
 7人の子供がまき割りをして、ひとりが自分を真っ二つにして、6人になった。
・・・という風に、ひとりずつ(結構残酷な形で)減っていくのだが、

その減っていく理由が、順に、「食事で窒息して」、「夜更かしして」、「旅行で滞在して」、「まき割りで」、「蜂に刺されて」、「訴訟に巻き込まれて」、「赤いニシンにのまれて」、「大熊に抱きつかれて」、「日焼けしすぎて」、「結婚して」となっている。

 まき割りや蜂やクマの登場は、時代的にありそうだし、訴訟というのもちょっと変だが、まあいいとしよう。
 問題は、「赤いニシンにのまれて」である。赤いニシン??「どうしてこんなマイナーな魚が出てくるんだろう。それも赤いだなんて。」と子供心に違和感を覚えたことを記憶している。
 

☆イギリスではニシンはより一般的
 ニシン(herring)は、ニシン目、ニシン科の海産魚、青魚である。日本でももちろん普及しているが、油が多く多少クセがあるせいか、日本ではそれほどポピュラーな魚ではないような気がする。しかし、こちらでは、かなり一般的な魚である。乱獲により幾分減ったとはいえ、大抵どこのスーパーの鮮魚売り場にも堂々と並んでいる。
 焼いたり、漬け、マリネにしたり。特に、燻製が有名である。赤いニシン(red herring、レッドへリング)とは、ニシンを開いて塩をして乾燥させたのちに燻製にした燻製ニシンのことである。キッパー(kipper)と呼ばれることも多い。残念ながら、数の子は普及していないようだ。

 実際のところ、私も連合いもあまりニシンは好きではなかった。同じ青魚でもアジやイワシのほうが断然好きだった。サケやマスのように寄生虫がいるので生食できないと聞いていたし、日本では、その他にも様々な新鮮なおいしい魚が手に入るため、あえて、ニシンを選ぶことはなかった。
 

☆生のニシンを使ってみたHerring_whole
 しかし、せっかくこちらに来たのだからということで、ニシンを試してみることにした。1匹 0.4ポンド(約80円)で買ったニシンは体長30cm弱。日本のよりも1~2周りほど小さい感じ。きれいに内臓とウロコが取り除かれている。写真では目が赤いが、これは捕獲時の内出血によるもので、鮮度が悪いわけではないそうである。
 三枚におろしてみる。身がしっかりとしていて簡単におろすことができた。日本にいたときに、煮物にして失敗した記憶があるので、照り焼きにしてみた。身がポロポロしていたので連合いはそれほど気に入らなかったようだが、臭みも殆ど感じられず、そう悪くはなかった。
 

☆食が進む、燻製ニシンのキッパーHerring_manx_kipper
 次に試したのが、燻製にしんのキッパー。鮮魚コーナーにあるマンクス・キッパー(Manx Kipper)というものを試した。軽くグリルで焼いて食卓へ。塩味のついた燻製なので、多少塩辛いのだが、これがなかなかの美味だった。適度に脂がのっていて、身もしまっていた。日本の一夜干しの干物のような感じである。焼いただけなのだけど、ご飯によく合う。

 このマンクス・キッパーは、マン島 という、イギリスグレートブリテン島と北アイルランドとの間のアイリッシュ海にある小さな島国の名産物だそうだ。うちが試したのは、スーパーの1枚たったの 0.50ポンド(約100円)のものだったが、魚にうるさい連れ合いですら、「これはおいしい!」と声をあげていた。いつか、本場のマン島のマンクス・キッパーを食べてみたいなと思った。Herring_boil_kipper

 その他、冷蔵コーナーにあるキッパーも試した。赤いニシンと呼ばれるだけあって、色の濃いサケのような色をしている。これは、ベニノキ(annatto、アナットー)という天然の着色料で色づけられているからだそうだ。うちが買ったのは、袋のまま茹でて調理するタイプのもので、バターが一緒に入っている。スーパーブランドのもので、200g入って 0.74ポンド(約150円)。茹でること13分、出来上がったキッパーは、簡易料理とはおもえないほど、ふっくらとしておいしかった。上手にバターでソテーされたような感じ。臭みも全く感じられなかった。

Herring_boiled_kipper そのままのニシンは、まだ使いこなせていないのか、それほど絶品というわけではなかったが、燻製ニシンのキッパーはどちらも、「ニシン、特に燻製ニシンは臭くて苦手」という私の先入観を根底から覆してしまった。おそらく、こちらに来なかったら、食わず嫌いのまま、キッパーのおいしさを知らずにいたかもしれない。
 

☆燻製にしんは、すねかじり?
 ところで、2005年のイギリスBBCのニュースによると、社会現象により、このキッパー(正確にいうと”kippers” キッパーズ)という言葉に新しい意味が付け加わっているそうである。”Kids In Parents' Pockets, Eroding Retirement Saving (親もとにいて、親の退職金をむしばんでいく子供達)”の頭文字をとって、KIPPERS。日本でいうところの、ニートになる。悲しいかな、こういう社会現象はどこの国でも同じなんだなと思った。そのBBCニュースはこちら(英語)。
 

☆レッドへリングの別の意味
 赤いニシン(red herring、レッドへリング)とは燻製ニシンのことだと言ったが、もう一つ意味がある。「人の注意をほかへそらすもの、囮(おとり)」という意味である。狩猟の際に獲物の通った跡に燻製ニシンを置くと、猟犬の嗅覚がにおいのきつい燻製ニシンに惑わされ、効かなくなる。これは、猟犬を訓練する時の一つの方法だったそうなのだが、ここから転じて、「人を欺くもの」という意味を持つようになったらしい。語源が狩猟というのがいかにもイギリスらしい。
 レッドへリングという言葉は、今では、小説の叙述トリックや政治のかけひきという意味で使われることも多い。由来はよく知らないが、アメリカのベンチャー企業情報誌(とでもいうのだろうか)の名前もレッドへリングだった。
 

 燻製ニシン、キッパー、だまされたと思って、試してみられてはいかがだろうか。
 

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